選択体系機能理論の概要

to top page


ハリデー『言語』2月号別冊 (特集: 言語の20世紀 101人)(pp.152-153大修館書店、2001年1月(山口 登)参照のこと。

M.A.K.ハリデー 『言語』6月号(特集: 「世界の言語学者たち: 学界の旗手27人の最新動向」)(pp.40-41)大修館書店、19886月 (山口 登)

Theoretical Dimensions for Making and Construing Meaningsには図や画像を中心とした選択体系機能理論の全体像を示してあります。

「意味ベースと状況ベース:選択体系機能理論に基づく自然言語処理モデルの基盤」にも選択体系機能理論の簡単な概要を示してあります。


選択体系機能理論の概要については、拙論「選択体系機能理論の構図:コンテクスト、システム、テクスト」 小泉保(編)『言語研究における機能主義:誌上討論会』(くろしお出版2000)をご覧いたきたい。以下にそのでだしの部分の「2 選択体系機能理論の思考法」を参考のために掲載しておきます。

2. 選択体系機能理論の思考法

 
SFTでは、言語を常に対人的相互作用の主要な一部と見る。対人的相互作用は、勿論、言語のみによってなされるわけではない。身体的行動(身振り、表情、服装、相手との空間の扱い、椅子や机の配置、等々)における様々なレベルの様々な要素の選択はすべて、対人的相互作用において特定の意味を作りだす。対人的相互作用は、無目的におこなわれるのではなく必ず特定の目的を果たすためにおこなわれる。どんなに内容が希薄だと思われる友人どうしのおしゃべりやゴシップあるいはよもやま話とて、相互の連帯を強めたりくつろいだりするためのものである。また、対人的相互作用は突然始まったり、突然終わったりはしないのであって、必ず特定の対人的相互作用には一定の始まりかた、進みかた、終わりかたがあるのである。例えば、あとでも示す事例であるが、「いらっしゃいませ」「お返しは?」「明日」「明日」「330円です。500円お預かりします。ありがとうございました」と「いらっしゃいませ、....... はい結構です。ありがとうございました」の2つの対話の流れは、実際のビデオレンタル店でのサービス対応で、前者はビデオを借りる際のもの、後者は返却する際のものである。この対人的相互作用は、決して「ありがとうございました」や「500円お預かりします」などで始まることはできない。ビデオレンタル店でのサービス対応の対人的相互作用には、客がサービスカウンターに接近するとか、店員が返却されたビデオテープの巻戻し状態などを確認するといった、言語以外の身体行動が含まれていて(後者では店員しか言語を用いていない)、相互作用の流れの必須の部分をなしている。これらの対人的相互作用の目的は、それぞれ、ビデオの貸借と返却である。このように、特定の目的をもつ対人的相互作用では、その目的に合った一定の言語行動と身体行動(それらはそれ自体がたくさんの関連要素が選択されたものであるが)、つまりその目的に合った意味のしかたが選択されなければならない。もしそれ以外の選択をすれば、その対人的相互作用ははたすべき目的をはたせなくなる。特定の対人的相互作用では、必然的に、選択しうる意味のしかたが限定されているのである。

 対人的相互作用には、サービス対応のように言語が比較的補助的な役割しかはたさないものを一つの極として(言語の使用をまったく必要としないものもあり得る)、もう一方の極には、いまおこなっているこの論述のように、言語なしでは対人的相互作用がなりたたないものがある。従って、
SFTが記述説明の対象とする対人的相互作用とは、単に相互作用者が直接的に対面しておこなうものだけではなく、相互作用者どうしが時空を超えておこなうものも含めて、この両極の間に入り得るあらゆる種類のものをさしている。つまり、SFTでは、いわゆる話ことばと書きことばのどちらも(各々異なる意味を作りだすが)が対人的相互作用の事象として等しく記述説明の対象となるの。いまここでおこなっている書きことばによるこの論述も、特定の相互作用者にむけて、特定の目的を果たすために一定の段階を経てなされているのである。

 特定の社会(対人的相互作用の役割のネットワーク)において、特定の目的を果たすために、一定の始め、中、終わりという段階を経ておこなわれる対人的相互作用では、理論的真空に構築される抽象的な「理想的話者聴者」は存在しえない。どの相互作用者も社会化の過程を経ることにより、特定の価値観のもとで、特定の対人的相互作用においてはたすことが期待されており、ほとんどの場合はたすことができる特定の役割(振舞いかた、ことばの使いかた等、もっと一般的に言えば、「意味のしかたhow to mean」を、社会化の過程で必要なだけ身につけてきている社会的人間social manなのである。SFTは、まさに、このような現実に存在しうる相互作用者を意味行動の中心に据えて、様々まな対人的相互作用における意味のしかたの選択の蓋然性(可能性不可能性ではない)を記述説明しようとしているのである。」

inserted by FC2 system