M.A.K.Hallday(著)An Introduction to Functional Grammar(2nd edition, Arnold 1994の日本語版
山口登・筧壽雄(訳)『機能文法概説:ハリデー理論への誘い』(
くろしお出版、2001 pp.lxv(65)+732 (797ps), 8000 yen +tax

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 原著にあった多くの誤記・誤植を修正し、 索引の改善をはかっただけでなく、新たに英日対照「選択体系機能理論用語集」を付加し、さらに(訳者あとがきとして)独創的な言語学者への道を歩み始めるまでの若き日のハリデーの姿を素描した「ハリデーの略歴」、原著を貫く意味のモチーフについての整理をおこなった「原著についての解説」、原著の難解さの背後にある文法範疇同定を根拠づけるための文法的反応について述べた「原著の難解さの理由」、原著の理解をバックアップする「入門書」や「案内書」について解説した「原著の「入門書」「案内書」について」などさまざまな情報を盛り込み、この日本語版を単なる翻訳を超えた「機能文法の概説書」、「機能英文法の参考書」、そしてハリデーの「選択体系機能理論への総合案内書」とした。

 関連書籍:『言語研究における機能主義:誌上討論会』(小泉保 編、くろしお出版、2000
  この本には、山口登による選択体系機能理論の概要を示した「
選択体系機能理論の構図:コンテクスト・システム・テクスト」とその関連記述が含まれております。


   1刷が出版元在庫切れとなり、2刷(重版)が刊行されました(2003.9.19)。2刷では、誤記・誤植を訂正しました。


訳者の序文

日本語版への序文
(翻訳には掲載されない原著英文版はこちらでご覧になれます)
M.A.K. ハリデー

 An Introduction to Functional Grammar の日本語版『機能文法概説:ハリデー理論への誘い』のためのこの序文を書くことは、私にとって格別の喜びである。私がこの日本語版の刊行をとりわけ喜ばしい思いで迎えるのには、4つの理由がある。

 1つめの理由は、訳者に関するものである。この20数年の間に私は何人かの日本の言語研究者と知り合う機会に恵まれたが、そのうち最も早い時期からの知己となったのが、本書の訳者である山口登、筧壽雄の両氏である。従って、両氏が私の本の翻訳・翻案の労をとられたことは、個人的にも非常に嬉しいことである。

 2つめの理由は、これまでに刊行された私の著述の日本語訳書1と関連するものである。私がかかわった著述の幾つかがすでに日本語に訳されているが、このたび日本語版が刊行されることになった著述は、私がこれまで書いたもののうちで特定言語(英語)についての最も組織的な論述からなるものであり、日本語で読むことが可能になるためには、この翻訳が待ち望まれていたのである。

 3つめの理由は、機能主義言語学関連の著述に関するものである。日本では他にあまり類を見ないほどに、言語理論と言語記述にかかわる多くの著述が絶えず公刊されてきている。しかしながら、これまでのところ、その多くはより形式主義的指向をもつ言語研究に傾斜しているように思われる。それに対して、私がおこなってきた研究は常に機能主義的指向をもつものである。その点から言うと、この日本語版と時期をほぼ同じくして『言語研究における機能主義』と題する本2)が、くろしお出版より刊行されるということを知り、嬉しく思っている。これらは互いに補完し合うものとなるはずである。

 4つめの理由は、やや複雑である。私がこれまで常に考えてきたことであり、また同じ考え方をする研究仲間も多いが、どの言語であれ特定の言語を記述し、それがその後の研究のその領域での準拠枠となるような場合、その記述はできるかぎり対象となる言語と同じ言語でなされるべきである。1956年に初めて公刊された私の論文3で導入した用語で言えば、「記述に用いる言語language of description」は「記述対象である言語language under description」と同じものであるべきである。それによって、メタ言語の術語は、記述対象となる言語においてそれらの術語がもともと担っている意味的負荷を担うことが保証されるのである。山口登、筧壽雄の両氏及び日本機能言語学会 Japan Association of Systemic Functional Linguistics (JASFL)の関係者が、選択体系機能理論で用いられている諸範疇の術語の日本語化の方向づけをおこなってきている4。この日本語版では、それに沿って、関連するすべての範疇の必要な日本語化がなされたことになる。もちろんこの訳書では、ことの性質上、どの術語も英語とのかかわりで用いられている。しかし、ひとたび日本語による術語が確立すれば、そのうちの該当するもの(つまり、すべての理論範疇と、少なくとも幾つかの記述範疇)は、選択体系機能理論による日本語の研究に適用することが可能になるのである。

 他の言語理論に親しんでいる言語研究者達のなかには、選択体系機能理論で用いられている術語の数に文句をつける人もいる(しかし、私の経験からすると、この理論を学ぶ若い研究者達にはそんなことに頓着する気配はなさそうである)。実際のところ、本書では可能なかぎり、伝統的に使用されている用語を取り入れ、そのもともとの意味を維持しようとした。しかしながら、このことがどうしてもなしえない3つの状況があった。

 その1つめは、選択体系機能理論で用いなければならない範疇が、これまでの言語研究の諸理論において存在しない場合である。そういった範疇には、次のようなものがある。理論範疇としては、「メタ機能metafunction」やその特定のクラスである「観念構成的ideationalメタ機能」、他の言語理論では用いられていない選択(系列)的視点に関連するもの、例えば「選択体系網system network」、「素性選択表示selection expression」、そして選択素性の多くの名称などである。また、記述範疇としては、「情報単位information unit」、「一次時制primary tense」と「二次時制secondary tense」、「被同定者identified」/「同定者identifier」などである。

 2つめは、形式文法や伝統文法にも同じような考え方は存在するけれども、そのために用いられる術語の意味がかなり違っている場合である。例えば、選択体系機能文法では、「階層下降rankshift」(埋め込み)と「従属結合hypotaxis」との間に明確な区別を設けており、従属結合の要素は依存関係にあるのであって、埋め込まれたものではないとする。また、「句phrase」と「群group」の間にも明確な区別を設けており、群は語が拡充したものであるのに対して、句は節が縮小したものとする。さらに、態にかかわる範疇は、伝統的に用いられている意味での能動態や受動態とは一致しないところがあるといったことなどである。

 しかし時として(これが3つめの場合であるが)、ほぼ等価の範疇がとらえられている場合であっても、形式文法の術語では不適切であると感じられることがある。つまり、それらは純粋に形式指向のもの(例えば、「分裂cleft」と「疑似分裂pseudocleft」など)であったり、英語中心主義的(「代名詞主語省略pro-drop」や「主語削除subject deletion」など)であったりするからである。そのような術語を用いると、言語の機能的記述という脈絡においては、誤りを引き起こすことになろう。

 もちろん、翻訳者にとっての本当に困難で挑戦的な仕事は、こういった専門術語の訳語をどう決めるかにあるのではない。翻訳とはまさしく新しいコンテクストにおける新しいテクストを創出すること、翻訳に用いられる言語によって用をなすテクストをつくりだすことである。言い換えるなら、翻訳者は、適切な機能をはたすテクストを、そしてもしそれが学術的テクストであるなら、原著書と同じしかたで機能する(つまり、その新たなコンテクストにふさわしい位置づけをもつ)テクストを構築しなければならないのである。

 これは容易な仕事ではない。しかし、このたびの翻訳によってこのことが成し遂げられたと私は信じているし、日本語を解する研究仲間からもそのように聞いている。山口登、筧壽雄の両氏のこの成果を祝福するとともに、この翻訳の企画を推進し、完成へと導いたくろしお出版の関係者に感謝のことばを述べたい。

                M.A.K. ハリデー
                
199911
                滞在先のニューサウスウェールズ州ウルンガにて


1 本の日本語訳としては、M.A.K.Halliday, Angus McIntosh & Peter Strevens. 1964. The Linguistic Sciences and Language Teaching. Longman. (増山節夫訳『言語理論と言語教育』大修館、1977; M.A.K.Halliday & Ruqaiya Hasan. 1985/1989. Language, Context, and Text: Aspects of language in a social-semiotic perspective. Deakin UP/ Oxford UP. (筧壽雄訳『機能文法のすすめ』大修館、1991; M.A.K.Halliday & Ruqaiya Hasan. 1976 Cohesion in English. Longman. (安藤貞雄他訳『テクストはどのように構成されるか』ひつじ書房、1998)があり、論文の日本語訳としては、John Lyons (ed.) 1971. New Horizons in Linguistics. Penguin Books.(田中春美他訳『現代の言語学』大修館、1973)におけるLanguage Structure and Language Function (「言語構造と言語機能」)がある。

2小泉保編『言語研究における機能主義:誌上討論会(くろしお出版、2000).

3Grammatical Categories in Modern Chinese. Transactions of Philological Society.1956. 177-224.

4)その一部が、龍城正明「選択体系機能言語学における基本概念と主要術語:transitivityの解釈を中心に」(『言語』4月号、大修館、1997)に示されている。なおこの翻訳においては、幾つかの術語についてさらに検討した結果、より適切であると思われるものをあて、龍城論文で提案された訳語に若干の変更を加えることにした。なお、本書の訳者の1人である山口登は、これまで幾つかの事辞典などにおいてハリデーの選択体系機能理論にかかわる執筆をしてきたが(「言語使用域とテキスト」『大修館英語学事典』1983;「Systemic Grammar 選択体系文法」『英語教育キーワード事典』増進堂、1991;「Systemic Grammar 体系文法」『現代英文法辞典』三省堂、1992;「Systemic Grammar 選択体系文法」『コンサイス英文法辞典』三省堂、1996;「ハリデー理論主要術語集」『言語』4月号、大修館、1991)、執筆の各々の時期におけるハリデーの研究に対する理解の程度や思い込みなどの理由から、幾つかの術語については、本訳書に用いているものとは異なるものを用いている場合がある。そういった試行錯誤を経て、今回のこの『機能文法概説:ハリデー理論への誘い』において提示することとなった一連の術語をもって、特別の理由がないかぎり、選択体系機能理論で用いられる術語の日本語化の決定案としたい。とりわけ重要なものとしては、ハリデーの理論/文法/言語学の英語名称systemic functional theory/ grammar/ linguisticsそのものの日本語名称の固定化である。これまでその意味するところが十分に理解されないまま、「体系文法」「体系機能文法」「システミック文法」などと、人によって個々ばらばらに呼ばれたり、英語名称をそのまま用いることで済まされる場合があったが、これも本訳書でも用いている「選択体系機能理論文法言語学」(この3つの呼び方は視点の違いを反映するに過ぎない)を決定訳とすることで、この研究領域について語る場合の共通名称としたい。

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